資料館


このページでは、本書で取り上げた制度的論点に関して、
日本の学会・行政が発表した公式資料・判断をまとめています。

 

特に、病理診断における医行為性の定義や、
非医師が診断的判断に関与することの法的・制度的リスクに関して、
行政・学術の双方が一致した判断を示していることをご確認いただけます。

 

社会学の用語になじみのない方は、最初に「社会学用語解説」をご覧ください。


 病理診断の医行為性を示す公式見解

■国民のためのよりよい病理診断に向けた行動指針2025
日本病理学会(2025年4月22日)

https://www.pathology.or.jp/jigyou/guideline2025-20250422.pdf

 

医学的判断を伴う罹患の可能性の提示や診断(病理学的診断)は、医行為であり、医師が実施すべきである

本見解は、直接的には医師以外の者による病理診断に言及したものではないが、日本病理学会が「病理学的診断」を医行為と定義しているため、非医師による医科病理領域の診断行為にも当然に適用される

同指針p18より。日本病理学会は令和2年、理事長名で厚生労働省に対し疑義照会を行い、上記回答を得た。


形式主義の終焉を告げる行政判断 

■健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン
厚生労働省・経済産業省(2025328日)

https://www.mhlw.go.jp/content/001467329.pdf

 

・無資格者である民間事業者が、利用者の個別の検査結果をもとに、疾患の罹患可能性を通知することは、医師法に違反する

・「これは診断ではありません」「あくまで一般的な情報です」といった注意書きや形式的な表現があっても、内容が個人の疾患可能性を示すようなものであれば、“実質的に診断とみなされ、違法と評価される”

※本記述は、厚労省・経産省の通知(2025年3月28日)および関連解説に基づき、著者にて要約したものです。詳細は通知原文をご参照ください。


制度の考え方は、すでに変わり始めている?

上記のような資料を見ると、
「形式上の資格や文言よりも、実質的な診断行為の主体に着目すべきだ」という判断が、
国の行政判断・学会の公式見解の中で共通して表れているようにも見受けられます。

 

 

実は、2025年の通知の8年前に、
京都大学の先生が既に警鐘を鳴らしていました。


診断主体の境界を明示する学識者声明

■口腔病理に対する意見(京都大学 羽賀博典)
平成29年(2017年)3月16日(木)
https://byori.kuhp.kyoto-u.ac.jp/templates/kokubyori.html

・医師の資格がない者が医行為である病理診断を行うべきではありません.これは当該の個人に病理診断の能力があるかどうか以前の問題です.

 

・我が国における診療は,医学部を卒業して医師免許を取得したものが行う医行為と,歯学部を卒業して歯科医師免許を取得したものが行う歯科医行為に分けら れています.もっとも最近の省庁の見解は平成8年5月16日(木)第2回「歯科口腔外科に関する検討会」で,医科と歯科は部位で区別されると結論づけています.これは病理診断についても同じと考えられます.

 

・歯科病理医が「口腔外」の病理診断を行った場合は,誤診でなくても「医師法違反」に問われる可能性があります


実はもっと前から問題視されていた?

京都大学の声明からさかのぼること16年前、
歯科医師が医科領域の診断書を出すことは、たとえ医師との連名であっても医師法違反の可能性があると、行政通知においてすでに指摘されていた形跡があります(下記2001年の行政判断を参照)。

 

 

また、資料館の2つ目に紹介した2025年の行政通知は、全く新しい見解ではなく、2005年の行政通知(0726005号)に基づき、医行為の定義を整理・再確認したものです。
形式による責任転嫁が許容されないという点で、行政の判断は一貫した傾向を示していたと見ることもできるかもしれません。

 


形式的関与すら否定した行政判断(2001年)

 ■厚生労働省医政局医事課長回答 医政医発第87号

平成13年(2001年)9月10日、厚生労働省が札幌市保健所の照会事項2点に対し、医師法17条違反であると回答したもの。plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/03/n5-hanketu2.htm

【照会事項1】

 省略

【照会事項2】

 歯科医師が、歯科に属さない疾病に関して、次のように書類を作成することの是非について
 1)医師の指示の下において又は医師と連名により、診断書、死亡診断書及び処方せんを交付すること。
 2)3)省略


医師法はどの業種にも適応されます

最後に、医師法の立場を確認しておきましょう。

医師法は、日本国憲法第25条第2項――
「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」
――を実現するために制定された法律です(医師法第1条)。

 

したがって、医師法は医療全般を統括する一般法であり、特定業種や特定行為のためだけにある法律ではありません。その法解釈は、あらゆる業種・サービスにおいて、公衆衛生や診療行為に関わる限り、平等に適用されるものです

 

❓ 医師法17条の「あいまいさ」と行政通知による補完

医師法第17条は、

「医師でなければ、医業をしてはならない」
と定めていますが、この「医業とは何か」という定義が明文化されていないため、長年にわたって“グレーゾーン”の解釈が行政通知に委ねられてきました。

つまり、日本の法体系では「医行為かどうかの判断」が行政の通知(いわば準司法的な解釈)によってなされることが多いという構造的課題があったのです。

 

🧭 今回(2025年)の通知がもつ制度的インパクト

今回、厚労省・経産省が共同で示した「2025年3月28日通知」では、医行為のなかでもとりわけ曖昧だった「診断」という行為に対して、“形式”ではなく“実質”によって判断すべきだという新たな明示的基準が示されました。

これにより、たとえ病院外で「一般情報です」と明記していても、実質的に診断行為を行っていると認定されれば、法令違反(医師法17条違反)と判断できる制度的環境が初めて整ったのです。

 

🧾 専門家の評価:形式から実質へ

この点について、リーガルX代表の関山翔太氏も、

「今回の通知は、形式から実質への大きな転換点といえる」
と評価しています。

 

民間解説記事:  2025.04.06

【がんリスク検査はNG?】“診断類似行為”と見なされる民間検査ビジネスの限界 ── グレーゾーンの終焉と、疾患リスク通知の違法性   | 情報発信

 

このように、医師法は特定の業種だけでなく、“誰が”“どのように”診断的判断をしているかを問う法制度であるという理解が、今後の制度運用において重要な視点となるでしょう。


医師法・歯科医師法 抜粋

◆ 医師法(昭和23年法律第201号)

 

第1条(目的)

医師は、医療及び保健指導を掌ることを任務とし、公共の福祉のために、医業を行うものである。

 

第4条(免許)

医師となるには、医師国家試験に合格し、厚生労働大臣の免許を受けなければならない。

 

第17条(医業の独占)[業務独占規定]

医師でなければ、医業をなしてはならない。

 

第18条(名称の独占)[名称独占規定]

医師でない者は、医師又はこれに紛らわしい名称を用いてはならない。

 

第31条(罰則)

第17条又は第18条の規定に違反した者は、三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

 

 

◆ 歯科医師法(昭和23年法律第202号)

第1条(目的)

歯科医師は、歯科医業を掌ることを任務とし、歯科医療及び口腔保健の向上を図ることを目的とする。

 

第4条(免許)

歯科医師となるには、歯科医師国家試験に合格し、厚生労働大臣の免許を受けなければならない。

 

第6条(業務範囲の限定)

歯科医師は、歯牙及び口腔に関する医業をなすことを業とする者とする。

 

第18条(名称の独占)

歯科医師でない者は、歯科医師又はこれに紛らわしい名称を用いてはならない。

 

第30条(罰則)

第6条又は第18条の規定に違反した者は、三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

 

※公式法令の最新版は e-Gov法令検索(https://elaws.e-gov.go.jp/)などを参照してください。