本書では、制度の隙間や法的責任の不明瞭さを明らかにするため、医学・法律・行政にまたがる専門用語が登場します。
ここでは、特に社会制度に関する基本用語をわかりやすく解説し、
Q&Aや資料館とあわせてご活用いただけるよう整理しています。
行政とは、社会のルールを運営・実行する役所のしくみのことです。
たとえば「ゴミの収集」「病院の設置基準」「診療報酬の決め方」など、日常に関わるルールの多くは、国(省庁)や地方自治体の“行政”によって具体化・運用されています。
私たちはしばしば「法律で決まってるんで」と言われることがありますが、その中身を実際に動かしているのは、行政通知や行政手続きといった実務レベルのしくみです。
つまり、行政とは、“法律を現場でどう動かすか”を決めている役割だと考えると分かりやすいでしょう。
法律は、国会で議論されて決まる「国のルールの原型」です。
誰にでも適用される強い効力があり、これに違反すれば**罰則(罰金・懲役など)**が科されることもあります。
法律に違反するということは、国民全体が共有するルールを破ることを意味し、刑事・民事の責任に発展する可能性があります。
一方で、行政通知は、厚生労働省などの役所が現場に向けて出す**「このように運用してください」という指針・解釈ルール」**です。
法律をどう現場で実行に移すかを示す“運用マニュアル”のような位置づけです。
たとえば病院の現場では、「法改正」は知らなくても、「新しい通知が出たらすぐ従う」ことがよくあります。
つまり、通知は**“現場を動かすハンドル”のようなもの**なのです。
🔍 では、通知に違反すると罰せられるのか?
行政通知そのものには、原則として“罰則”はありません。
つまり、「通知を無視したから逮捕される」「通知違反で処罰される」といった直接的な罰則は、通常はありません。
ただし注意すべきなのは:
通知の内容が、実質的に“法律の解釈”として機能している場合には、それを無視して行動した結果、法的責任が問われるリスクが生じるということです。
たとえば、行政通知で「この行為は医師にしかできない」と明記されている場合、それに反する行為をすれば、医師法違反などの刑事責任に発展する可能性があります。
💡まとめ:通知は“実務の地図”、でも無視はできない
通知に直接的な罰則はなくても、法律の“解釈”としての重みがあるため、実務現場では通知に従うのが原則です。
通知は、“罰則はないけれど、無視すると危険”という
「法律と現場のあいだ」をつなぐ実務ルールなのです。
法律とは、国の基本ルール(=憲法)を社会の中で具体的に運用するための**“実用的なルールブック”**です。
法律にはいくつかの分類がありますが、まず重要なのが刑事法と民事法のちがいです。
刑事法:国家が「これはやってはいけない」と定めたルールに違反した人を罰するためのルールです。たとえば、窃盗や詐欺、無免許医業もこれに該当します。
民事法:個人どうしのトラブルを解決するためのルールです。たとえば医療ミスに関する損害賠償請求などがこれに当たります。
たとえば医師法には、「無資格で医業を行ってはいけない」という規定(第17条)がありますが、これは罰則(罰金・懲役)があるため刑事法の性質を持つものです。
つまり、“医師のふりをして診断する”ことは、万引きや詐欺と同じく、「国家に対する違反」として罰せられるのです。
法律にはもう一つの区分があります。それが「一般法」と「特別法」です。
一般法:原則的なルールを定めた基本法。
特別法:ある特定の分野や立場に向けて、その分だけルールをカスタマイズしたもの。
たとえば、医師法は「医療業務を行う資格者」全体に適用される一般的な枠組みですが、
歯科医師法はその中で「歯科」という限定領域に特化した特別法にあたります。
この関係は、たとえるなら:
「医師法」がベースの交通ルール全般なら、
「歯科医師法」はその中の“自転車専用のルール”のようなものです。
この関係を理解しておくと、制度の解釈で迷ったときに「原則は医師法、ただし歯科領域では歯科医師法で特別に認められている」など、優先順位と適用範囲を読み解くことができます。
学会ガイドラインは、専門家の集まりが「こう診療すべきだ」とまとめた知見の集大成です。
ただし、それは“推奨”であって、“命令”ではありません。
つまり、法律や行政通知のように、守らないと罰せられるものではありません。
しかし一方で、実際の医療現場ではこのガイドラインが「準公式ルール」として機能する場面もあります。
そして、裁判などの場では「ガイドラインに従っていたかどうか」が医療の妥当性を判断する材料になることもあります。
ガイドラインは、“命令ではないが、影響力はある”文書です。
法律より柔らかく、でも現場ではとても強い。そんな**“空気を動かす規範”**だと言えるでしょう。
🧭 ガイドラインにも「守るべきルール」はある
ただし、ガイドラインを作る側にも、守るべきルールがあります。
それは、**憲法や法律など、国全体の秩序を支える「より上位のルール」**です。
たとえば、学会が独自のルールを作ったとしても、それが医師法や憲法の理念に反していれば無効とされる可能性があります。
これは、たとえるなら:
「病院内でのローカルルール」は便利だけれど、それが「道路交通法に違反するルール」だったら意味がない——というような関係です。
💡 まとめ
学会ガイドラインは、現場にとって非常に大きな意味を持ちます。
しかしそれは**法を超えるものではなく、あくまで法の内側に位置する“専門家の知恵”**です。
だからこそ、ガイドラインが何に基づき、どんな前提の上に立って作られているかを知ることが重要なのです。
▶ 憲法とは?:国家の暴走を防ぐ“重し”
現代の国は、昔のように王様が命令を出す「絶対王政」ではありません。
今の社会は、国民一人ひとりが主権を持つ“国民国家”です。
この国民国家では、私たちは自分で人を裁いたり罰したりする権利(私的懲罰権)を放棄し、
そのかわりに「国家にその役割を託す」という選択をしました。
でも、もしその国家が暴走したら、どうなるのでしょう?
だからこそ、私たちは国家に「権限」を与えると同時に、
「暴走してはならない」という“重し”をつけたルール”も定めました。
それが、憲法です。
憲法は、「国家がしていいこと」「してはいけないこと」を最も根本から決める“主権者(私たち)からの命令”です。
つまり憲法とは、国家に「ルールの中で動け」と命じる、国民から国家への最終ルールブックなのです。
▶ 法律とは?:憲法を社会に下ろす“実務ルール”
では、法律とは何でしょうか?
それは、憲法という理念を、社会の現場で実際に使える形に翻訳したツールです。
たとえば「誰がどんな仕事をしてよいのか」「その責任はどこにあるのか」などを、具体的に定めています。
たとえば医師法は、「医師しか診断してはいけない」というルールを明記しています。
これは、国民が国家に委ねた「正確な医療を、資格のある者に任せたい」という意思の一部が、
法律のかたちで実現しているということです。
▶ 医師法17条とは?:あなたの信託の“かけら”
医師法第17条には、こう書かれています:
「医師でなければ、医業をしてはならない。」
この一文は単なる行政ルールではありません。
これは、あなたが国家に託した信頼と安全の“かけら”なのです。
私たち国民は、「医師ならきちんと診断してくれるはず」と信じています。
だからこそ、国は「それ以外の者が診断を行えば、国家が処罰します」と定めているのです。
つまり、医師法第17条は──
あなたが命をあずける現場に、“信頼できる人”だけが立つための、最小限の防波堤
なのです。
💡 まとめ:制度とは、あなたの意思を形にした“社会の契約”
私たちは知らないうちに、制度と契約を結んでいます。
医師免許制度も、医師法も、行政通知も、
すべては「社会がまわるために、誰が責任を負うのか」を決める“信頼のデザイン”です。
だからこそ、それを破る者がいれば、
それは単に「法律違反」ではなく、
「あなたの信託を裏切った行為」でもあるのです。
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